好きで好きで痛すぎて
なんなのよ。2年ぶりに再会したっていうのに、あいつ、人の顔見るなり血相かいて逃げてって。そりゃ、こっちだってちょっとはムッとしたかもしれないけどさ、あんなに顔引きつらせることないじゃない。……なんていうか、一応は向こうも悪いことしたと思ってるのかな。まあ、逃げだしたい気持ちもわからないでもないよ? 別れるときには、あいつ、10人も股かけてたんだし。でも、あたしは別に謝ってほしいとか思ってなくて、それよりなんであんなことになったのか知りたいだけで。……なんで、あんな風に離れていったんだろ。なんで、あたしあのとき、追いかけなかったんだろ。もう2年も経ってるんだよ? なのにあたし、あのときとなにも変わってない。変われないんだよ、あいつがあたしを置いていったから。
×××
うわ、めっちゃ焦った。なんであんなところにいるんだよ。いや、この町に帰ってきたおれが悪いんだけど。2年ぶりか、2年ぶり……。全然変わってなかった。ちょっとびっくりしたあと、怒ってきゅっとつり上がった目も、悔しいとき噛みしめる唇も、髪の長さも、強張らせた肩も、なんも変わってない。あー、くそ。思い出しちまうだろ、いろいろと。なんであんな、なんでそんな、……あー、抱きしめてえ。あーあーあー、今のなし。なしだぞ、絶対なし。なんのために離れたんだよ。これじゃ意味ねえだろ。10人も相手に浮気して、それでもダメで離れたってのに。……あいつ、驚いてたな。そんでちょっと怒ってた。思わず逃げたけど、面と向かってたらなんて声かけた? よお、久しぶり。どうしてた? 新しい男できたか? まあ、無理かあ。お前、モテないし。相手してくれるやつなんかいないだろ、おれくらいしかさ。……ダメだ。結局、昔のことしゃべるしかなくなる。言えねえだろ、いろいろと。あー、なんでまた会っちゃったかなあ。
×××
ごめん、待った? それにしても久しぶりだね、リョウスケくんと飲むの。おんなじ街に住んでるのに、全然連絡とってなかったし。いつぶりだっけ? ……そっか。あいつが、いなくなって以来、か。あいつさ、今、帰ってきてるの? いや、こないだ、ちょっと会ってさ。って言っても、顔見た途端に逃げられたんだけど。え? あー、お察しの通り、今日はそれでリョウスケくんのこと呼びだしたんだよね。いや、ほら、リョウスケくんてこの街じゃ一番あいつと仲良かったじゃん。だから、なんか聞いてるかと思って。今、あいつどこにいるの? リョウスケくん家? ……ええー、会いには行けないよ。また逃げられると思うし。あいつも会いたくないだろうし。ただちょっと、どうしてるのかなあって。でもそっか、こっちで就職したんだ。リョウスケくんも大変だね、家が決まるまで置いてくれなんて。先に部屋決めてから来いよって感じだよね。あいつ、昔からそういうところ抜けてるから……。まあ、でも、そのうち出ていくんじゃない? 泊めてくれる女なんていくらでもいるんだし。あ、ごめん。愚痴っぽくなって。忘れて。あー、もういっか。今日はあいつのこと忘れて飲もう。せっかくリョウスケくんとも久しぶりに会えたんだし。はーい、もう1回、かんぱーい。
×××
いって。なんだよ、帰って早々に人の頭、蹴りやがって。はあ? 聞こえねえよ、水道止めてからしゃべれ。あ? え? ちょっ、マジで? お前、あいつと飲んできたの? なんで? なんのために? いつも会ってんの? は? ……う、うるせえよ。別に気になんねえし。今の質問なし。どうでもいいわ、そんなこと。可愛かったとか、お前の意見は聞いてねえんだよ。だいたい、あいつの見た目とか全然、リョウスケのタイプじゃねえだろ。は? ……なんだよ、いじらしいからって。え? お、おれは別に会いたくねえし。知ってんだろ、おれが10人も相手に浮気して出てったこと。は? 部屋? 急に話変えんなよ。まだ探してるところだよ。……馬鹿じゃねえの。あいつんところなんか、帰れるわけねえだろ。お前、ホントなんの話してきたの? 余計なこと言ったんじゃないだろうな? ……あー、もう。なんでまたあいつが出てくんの、おれの人生に。わかってるよ、おれがこの街に帰ってきたのが悪いんだろ。何回も言うな、知ってるっつの。あー、くそ。……なあ、あのさ、別に興味とかないんだけどさ。あいつ、今、男いるって言ってた?
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さあて、どうしたものでしょうね。繁華街の路地裏に倒れてる酔っぱらいを見つけた場合って。警察? 保護者? はは、ここ笑うとこ。それにしても、馬鹿面だなあ。なんでこんなところで酔いつぶれてるわけ? リョウスケくんはどうしたんだろう? 一人で飲んでた? まさかね、さびしがり屋のこいつに限ってそれはない。でも、本当、昔となんにも変らない。うりうりうり。ありゃ、額ぐりぐりしても起きないや。よく寝てることで。一回寝たらなかなか起きないのも変わらないなあ。おーい、こんなところで寝てると風邪引きますよお。え、あれ、ちょっと。うわ。こっち、もたれ掛かってこないでよ。ぐっ、重い。うーん、じゃないわよ。こら、胸に顔寄せんな。はあ……。寒い、じゃないわよ。ったく、温めてもらうならもっと素敵な女性がいるでしょうに。ここ、人通り少なくって良かった。カップルでホームレスなんて笑えない。……いや、カップルじゃないか。もう付き合ってないし。ってか、そっか。人肌とかも2年ぶり、か。なんか、くすぐったい、よね。はははっ。……あーあ、もうやんなっちゃう。あんたはさ、あたしのこと、モテないモテない言ってたけど、別に誰からも誘われなかったわけじゃないんだよ? あんたが出て行ってからだって、1人か2人は誘ってくれたんだから。でもさ、でも、全部断っちゃったよ。惜しいことしたなあ、1人めっちゃイケメンがいたのに。あんたよりもずっと、……ずっと。……あー、寒い寒い。ねえ、さっさと起きてよ。あたしまで風邪引くんですけどお。ねえ、聞いてる?
×××
くしゅん。あー、やべえ、熱下がらん。こんな日に限ってリョウスケのやつ仕事だし。日曜に仕事するじゃねえよって。だあー、頭いてえ。やっぱ、路地裏で寝たのはまずかったなあ。でも、しかたねえよ。知らない間に寝てたんだから。……ってか、起きたら首に巻いてあったストールってさ。……いや、考えすぎだろ。どっかの親切なお姉さん、そう、それもめっちゃナイスバディなお姉さんが置いて行ってくれたもんだって。あんな青のストールとか見覚えないし。あいつもおんなじの持ってて、それがお気に入りだったなとか覚えてないし。……はあ。なにやってんだ、おれ。あいつ、なのかな、これ。そんな偶然あるか? たまたま倒れてたとこにあいつが通りかかるなんて。……まあ、あいつがバイト帰りにあそこら辺よく通るってことは知ってたけど。たまに迎えに行ったりはしてたけど。いや、ちげえから。ちょっと気になって歩いてたとかじゃねえから。もしかしたら、会えるかもとか思ってねえから。あー、ダメだ。熱がまわる。ぐわあー。冷えピタ、どこだっけ? リョウスケが買ってきたやつが玄関にあったはず。ん? 今なんか玄関の向こうで音しなかった? 誰か来たのか? あ、リョウスケのやつ、さては忘れもんでもしやがったな。そういや、さっきトイレ行ったときにカギ掛けたんだっけ。あー、はいはい、今開けるって。……あれ? 誰もいねえし。あ? なんだこれ。食いもんと風邪薬? え? なんで? 誰が……、まさか、あいつじゃ、ねえ、よ、な?
×××
なんでこんなことになってんだろ。とりあえず、目の前でコーヒーをすするお姉さんが、あいつの昔の女だっておっしゃってることだけはわかった。たぶん、2年前の10人の中の1人だろうね。にしても、めっちゃスタイルいいなあ。ミニスカから出てる足とかキレイだし、胸もおっきい。なにより、美人だ。いや、わかってたことだけど、あいつって面食いだよね。なんであたしがそのなかの1人として相手されてたのか、つくづく謎だわ。まあ、それはいいとして、この状況ってなんなの。急にバイト先に来て、話があるからって夕方の休みに連れだされて、カフェでお茶。落ち着かない。なんかしゃべってくれないかな。いや、むしろ帰らせて。
……は? え? なんですか? いや、あたしは別にあいつの最初の女とかではないです。むしろ、浮気の中の1人っていうか。……いや、確かに一緒に住んではいましたけど、本当にそれだけで。最後の方は、ほとんど帰ってこなかったし。こう言っちゃなんですけど、あなたと同じ被害者っていうか。い、いや、その、こんなキレイな人とおんなじだと思ってるわけじゃないですけど。その。……あ、そうなんですか。昨日、会われたんですか。あの、風邪治ってましたか? あ、いやいや、その、なんでもないです。……え、よりを戻そうって誘ったんですか。あいつ、なんて? あ、そうですか。いや、ほっとなんかしてないです。ホント、あいつなんて滅べばいいと思ってますから。え。…………あー、えっと、それ、いつのことですか? はあ、そう、ですか。あ、お、おかえりになるんですか。あたし、おごります。……あ、そうですか。あの、えっと、ありがとう、ございました。なんか、すみません。
うわ、後ろ姿も美人だな。ってか、なんだ、それ。そんな話聞いてない。あいつがこの街を出ていった理由、あたしが、……あたしのことが好きすぎで辛いなんて、なんだそれ。
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いってえ。リョウスケ、てめえ、帰ってくるたびに頭叩くの止めろよな。はあ? なんだよ、人のAV勝手に見てたくらいでキレやがって。うるせえ、生身の女は面倒だからこれで我慢してんだろ。あ、おれの焼酎取って。右の棚の奥。うお、投げんなよ。当たったら死ぬだろ、瓶は。ったく。……は? だから言ったろ、生身の女は2年前でもう懲りてんの。適当に食ってたら、あとでしっぺ返し食らうんだよ。あーあー、はいはい、そうでしたね、2年前にお前が言ってた説教と同じですよ。……っつか、今日、昔の女に会ったし。あいつじゃねえよ。浮気の中の1人。なんか、より戻しましょうって言われて。またあのときみたいに遊びでもいいからってさ。……断ったって。うるせえな。だから、お前のしけたAVなんか見てんだろ。受けてたら今頃、女とベッドにいるっつの。……でも正直、溜まってたからさ、一回くらい良いかと思ったんだけどな。なんかなあ、あいつのこと、頭に浮かんできてダメかもって。っつか、浮気がばれたときのあいつの顔? この街に戻ったせいかなあ。……え? なんで別れたかって? 何度も聞くなよ。あー、そりゃリョウスケには迷惑かけてるけどさ。いや、別にあいつは悪くねえよ。おれが、悪いんだよ。ちがっ、浮気のことじゃなくて。そうじゃなくて、おれがあいつを好きすぎたのが悪いんだよ。
……あんなに好きになったのは初めてだった。あの頃はさ、いっつもあいつのこと考えて、顔見りゃ我慢きかなくて、いつもあいつが気絶するまで抱いてた。誰にもやりたくなくて、誰にも見せたくなくて。でも、そんなん癪じゃんか。あいつはおれほど好きじゃないのに、おればっかり。しかも、すげえ美人でもない、普通の女相手にさ。だから、他の女で欲散らせば性欲も抑えられるし、あいつもちょっとは嫉妬するかもって。ガキだよなあ。
それでも、あいつに会うと我慢ならなくて、話し合おうとするあいつを無理やり抱いてた。そんなおれなのに、あいつ、全部許しちまうんだもんな。怒るっていうより叱るっていうか。自分が情けなくなって、逃げた。でも、なんも変わらなかったな。あの時はあいつにどうして欲しいのかわからなかったけど、今思えば、あいつにも死ぬほど好きって思いで狂ってほしかったのかも。
……今はどうかって? さあ、どうだろ。もう一回、会ったら、わかんのかな。そういや、青いストールどうした? 洗ったんじゃないだろうな。あ? においが取れるだろうが、馬鹿。……おい、なんだその顔。引いてんじゃねえよ。
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夢を見た。昔の夢。
あいつとまだ、同じ部屋に住んでたときのこと。あいつは片づけがとにかく苦手で、すぐ散らかすからいつもあたしが掃除してた。だから、隠すのも下手で、浮気してんだろうなってのもすぐにわかった。女の痕跡がそこら中から出てくるし、平気で匂いのついた服とかもよこすし。馬鹿にしてんのかって怒ったこともあるけど、あいつがモテるのは知ってから、そんなふうに怒ったら別れるとか言われそうだったし。そうですよ、結局はビビってただけなんです。
あいつの前に付き合ってた男は、初めての恋人だったから尽くしに尽くしていたってのに、飽きたとか言われて捨てられた。だから、あいつが浮気してんのに、まだあたしのこと抱こうとするのが不思議だったなあ。
夜遅くに帰ってきて、こっちがベッドから眠い目こすっておかえりって言ったら、無言で組み敷いて来て。いつからだっけ、あいつ、セックスしてるとき全然しゃべらなくなったんだよね。しゃべるのも面倒なのか思ったら、めちゃくちゃ必死な顔してるし。部屋で普通に暮らしてるだけなのに、どこでだって襲われた。なにごとって思ってるうちに服をはがされて。あいつが家にいてる間、あたし、ほとんど全裸だったんじゃない? ははは、笑えない。
体はめっちゃ求めてくる、なのに浮気する、なんで? この無限ループのなかでぐるぐるしてたら、ある夜、いつもみたいに急に襲われた何度目かのとき。グラグラしてる頭にあいつの声がして、好きだ、って。すごい震えた声で言われた。最中に好きなんて言われたの、いつ以来だ? え、って思ってるうちに意識が落ちちゃって、気付いたらもうさよならですよ。リビングのテーブルにメモ書きで、別れる、ってさ。それだけ。それっきり、この間まで2年間も音沙汰なし。あとで聞いたら、浮気相手は総勢10名だっていうんだから笑うよね。いや、笑えなかったんだけど。……どういうつもりでさ、あたしと一緒にいたのか。それがずっと知りたかった。まだまだ続くと思ってた映画が、突然、ぶつっと切れたような呆気なさだったから。まだその続きを待ってるって言ったら、あいつは笑うかな。
×××
「お前ら、マジことば足りてなさすぎ。ちっとは話しあえ」
×××
「あいつ、今から宿なしになったから見に来てやって。近くの公園でホームレスってる」
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「なんか、深夜にリョウスケくんから意味不明なメール来たんだけど。……なにしてんの?」
「公園の砂場で城つくってる」
「いや、それは見たらわかるけど」
「ちなみに熊本城」
「それはわかんなかった」
「……」
「……」
「久しぶり、です」
「なんで敬語? あ、うん、久しぶり。今日は逃げないの?」
「リョウスケが話しあえって」
「ははっ。ホント、あたしたち、リョウスケくんに迷惑かけすぎ」
「うん」
「元気、だった? 風邪、治ったの?」
「うん。やっぱ、知ってた? 風邪引いてたこと」
「まあ、一応」
「ちなみに、青いストールとか身に覚えあったり、します?」
「だから、なんで敬語? ストールは、その、たまたまだから」
「あ、そう」
「うん」
「……」
「……」
「なんか、いろいろごめん。すみません、でした」
「いろいろって?」
「浮気、とか? 勝手に出て行ったこと、とか」
「……うん。後者はちょっと引きずった、かも」
「そっか。ほんと、ごめん」
「なんで、とか聞いてもいい?」
「うん」
「なんで、まだ好きでいてくれたのに出て行ったの?」
「え」
「そんなビックリしなくてもいいんじゃない? あんたが浮気してた女の人から聞いたの。あんたがよく言ってたって。〈あいつのこと、好きすぎて辛い〉って。それが失そうの原因?」
「……」
「そ、そりゃあさ、毎回、死にそうになるまで抱かれて体は痛いし、のども枯れるし、頭もぐらぐらしたけどさ。でも、あんたに求められること、いやだなんて思ったことないよ? 浮気はそりゃいやだったけど、いつも必ず戻ってきてあたしを求めてくれるのはうれしかった。あの部屋にいれば、まだ、希望は、あるって」
「そうやって、泣くの、我慢するとこも変わってないのな。辛いことあっても、いっつも眉寄せて我慢してた。お前、抱かれてるときだってそんな顔してたよ」
「それは! それは、あんたがなに考えてるか、わからなかったから」
「……」
「……」
「ホントにおれら、ことば足りねえのな。あのときだってちゃんと話してれば、こんなふうにならなかったかもしれない。……おれが、そんな機会つぶしてたんだよな。自分の不安埋めることばっか考えて、セックスしてる間だけはお前が自分の物になるような気がしてた」
「……あたしはあんたがいなくなってからずっと、なんであのとき追いかけなかったんだろうって考えてたよ? もし、あのとき、どんな手段使ってでも追いかけて〈浮気なんかしてんじゃねえよ、ばーか〉って平手打ちでもしてやってたら、少しはなにか変ったのかもって。でも、そんな自信なかった。いくらいつも自分のところに戻ってきてくれるっていっても、あんたにとってあたしが一番だなんて確信どこにもなかった。勝手するなって説教できるくらい好かれてるって思えなかったから」
「……好き、だったよ。ずっと好きだった。好きで好きで好きすぎて、あっちこっち痛かった。こういう自分勝手な好きって気持ち、全部お前に押しつけたら、それこそ取り返しがつかないくらい傷つけちまいそうで」
「だから、離れたの?」
「逃げたんだ。怖かった、ものすごく」
「でも、戻ってきた。それは、たまたま?」
「……この際だから言うけど、ほんと言うと、わざと。賭け、でもあったけど」
「賭け?」
「この街に戻ってきて、まだお前がそこにいてくれたら。他の男と幸せに暮らしてなかったら」
「なかったら?」
「……いや」
「言ってよ! そうじゃなきゃ、あたしたち、また進めなくなる」
「言ったら、もう離してやれなくなる。前以上に傷つけるかもしれない」
「あたしはずっと待ってた、あの日の続き。あのとき、もし、体だけじゃなくて心もちゃんと向き合ってたら、そしたらどうなってたかって」
「……ごめん」
「……」
「……」
「そっか、……そっか。これもあの時と同じなんだ」
「え?」
「あの時も、あたしは部屋を出なかった。待ってれば、なにか変わると思ってた。でも、それじゃあダメなんだよ。待ってるだけじゃ、ダメなんだ」
「え。ちょっ、おい、待っ」
「ん……」
「……」
「なによ。キスなんて久しぶりなんだから、ちょっとくらい下手なのは見逃しなさいよね」
「いや、いや、ちょっと、もう一回」
「ぁ」
「……」
「……」
「やばい、すげえ、うれしい。っつか、なんだろ、いとおしい? 好きだよ、すげえ好き。ずっと好きだった」
「う、わ、ちょっ、と、キス、多い」
「じゃあ、一回だけの濃くて長いやつ」
「んんぅ」
「……」
「……」
「……あ。今、思い出したけど。ここ、夜の公園だった」
「お、思い出すの、遅いし」
「息切れすぎ。ホントに久しぶりなんだ?」
「うっるさいなあ。にやにやしないでよ。……そ、それより、ねえ、どうすんの? 宿なしなんでしょ? それとも、まだ熊本城作る?」
「ううん。お前んちで子作りする」
「うわ、オヤジ。引くわ」
「え? ダメ? ときめかない?」
「全っ然」
×××
でね、みんなのリョウスケくんはお怒りなわけですよ。朝の五時に電話で叩き起こされて? スーツがないと仕事に行けない、持ってきてくれ? 2人とも外に出れない状態だから? リア充、マジ爆発しろ。俺はねえ、慈善事業で恋のキューピットなんかしてるんじゃないんですよ。自分で言ってて寒くなるわ。だいたい、お前らはどう考えても未練たらたらなのに、まどろっこしいんだよ。人間様ならズバッと好きだのなんだの言えばいいでしょうが、そのために口が付いてんだから。ディープキスするためだけに口が付いてるんじゃないんですよお。わかってますかあ? ……で? 一応は解決したわけ? あ、そう。まあ、見ればわかりますけど。ああ、いい、いい、証明とかしなくていいから。そのうちお前んちに爆弾しかけるぞ。っつか、お前はいい加減に部屋を見つけろ。え? 前に2人で住んでた部屋、まだ空いてるかだって? 知るかよ、そんなこと。あー、イライラしてきた。もう帰る。帰って、寝直す。あのね、一応言っておくけど、今のお前らラブラブ過ぎてマジ痛いから。……はあー、ったく、犬も食わねえっつの。
×××
「だってさ。リョウスケくん、いつも以上にお怒りだったね」
「いいの、いいの。いつものことだから」
「あたしたち、痛いのかな?」
「いいんじゃない?」
―――好きで好きで痛すぎて、それでもやっぱり好きなんだから。
〈 了 〉