そのに映るモノ 後日談




― side スグル


「なんだ、これ」

桜小路の薬局にサキと戻って、突き付けられた一枚の用紙に俺は不機嫌な第一声を発した。

母親や実家との因縁を絶ちきったサキ。
彼女を迎えに行って、良い雰囲気だったのが数分前。

薬局に入って出迎えた桜小路に、サキとつないでいた手をガキみたいに、えいやっと絶ちきられたのが二分前。
眼前に突きつけられた紙に箇条書きされた文字を読みとったのがついさっき。

「なんだよ、これ」
「なにが書いてあるんですか、先輩?」

あぜんとする俺に、サキが不思議そうに問いかける。
彼女との間には、長身の桜小路がにやにやと嫌な笑みを浮かべて立ちふさがっている。

俺はその嫌味な男をにらみ返しうなる。

「どういうことだよ、桜小路?」
「おいおい、俺に向かってそんな横柄な態度をとっていいのかな? 今日から俺はサキのお義父さんだよ?」
「ぐっ……。だ、だからなんだよ? それとこれとは別の話だろ?」
「いいや。だからこそ、これは俺のやるべき責務だね。特にお前には。佐藤スグル」

桜小路は俺の手から用紙を奪い取ると、こほんとのどを整え、サキにも聞こえるようにやけにかしこまった口調で文書を読みあげはじめた。

「えー、第一条、サキの部屋に上がる際には、必ず一階の薬局にて桜小路善の許可を得ること。
 第二条、サキの部屋での宿泊の二泊以上を禁ずる。また佐藤スグル宅でのサキの宿泊も左に同じ。
 第三条、サキを泣かせた場合、最終審判は桜小路善に一任される。
 第四条、浮気などにうつつを抜かした場合は、処分。
 第五条、避妊は忘れずしっかりすること。
 以上が、佐藤スグルが桜小路サキと交際するにおいて、最低限守るべき条件である」

最後に満足気にうなずいて、桜小路の読みあげは終わった。

愕然とする俺のとなりを見れば、サキは顔を真っ赤にして目を背けた。
まあ、だいたいサキが顔を赤くする原因はわかるが、俺はとてもそれどころではない。

「なにか質問は? いまならひとつくらい受けつけよう」

無言で手を上げれば、桜小路が気持ちの悪いほど良い笑顔で俺を当てる。

「なにかな、佐藤スグル?」
「……ちょいちょい桜小路の名前が出てくんのが気になんだけど。あと、第四条の〈処分〉ってなんだよ?」

そう問いかければ、ふっ、という薄気味悪い笑みが返ってくる。
背中をぞわりと駆けあがる。いやな予感。

「そりゃあ、お前、……とりあえずは一生、起たなくしてやることから始めようかな」
「はあ!? じょ、冗談!」
「だったらいいけどね? まあ、この五カ条を守ればいいだけの話なんだから簡単だろ?」

ことばこそ気楽だが、あやしげに微笑む表情に気軽さなどない。
サキまで気毒そうな目で俺を見る。桜小路は俺の性的器官を不能にするくらい、軽くやりかねないのだ。

「わかってるよ。あんたに顔立てするかどうかともかく、サキを泣かせたりしねえ」
「スグル先輩……」

感じ入った声が俺を呼ぶ。好意が伝わる目線に、サキの髪をなでてやる。
ひかえめに微笑む口元がうれしさを含んでいた。

と、いい感じの雰囲気をまたしても桜小路が突き破る。

「あー、はいはい。バカップルはよしなさい。あ、これも規則に入れようか。〈人前でいちゃいちゃしない〉」
「んだよ、それ。ただのひがみじゃねえか」
「これも必要だな。〈佐藤スグルは桜小路善をうやまうこと〉」
「おい、変なの書き加えんな!」

わあわあ言ってる間に桜小路による法律はどんどん増えていき、最終的に書き連ねられた誓約書に無理やりサインさせられ、ぼろぼろになった紙はサキの部屋のとびらの内側に貼られることとなった。
マンションのとびらに大きく紙に満足した桜小路は鼻歌まじりにスキップして、一階の薬局へ帰って行った。

「いつか俺はあいつに殺されるぞ」
「そう言わないでくださいよ、先輩。あれでもお兄ちゃん、スグル先輩のこと気に入ってるんですよ」
「……冗談だろ?」
「えっと。確認したわけじゃ、ないですけど……」

申し訳なさそうに目を逸らして言うサキのことばに、俺は深いため息をもらす。
まあ、サキと俺の最初の関係が無理やりだったことを知ってる桜小路が、サキとの接触の一切を禁じてこなかっただけマシだと思ったほうがいいんだろう。

「あの、上がります? まだなにもないんですけど」

目の前でサキがやけに緊張したようすで提案してくるのを見て、そういえば、この状況はかなりおいしいことに気付く。
途中、桜小路という余計な介入者を挟んだとはいえ、俺はこのガードの固いサキの部屋に難なく侵入できたわけで。

じろりと上目にサキを見れば、びくりと震える小さな体。
俺たちの場合、ことばにするよりも先に体が相手のサインに答えてしまう。条件反射ってやつだ。

「サキ」
「あ、えっと。と、とりあえず、お茶を」
「いいって。わかってんだろ?」
「いや、あの……。う、わ」

玄関から部屋の中へ逃げようとするサキの腰に腕をまわして引き寄せる。
お互いの体温をすぐ近くに感じる。外で手を繋いでいたときとはちがう、もっと先の行為を予感させる熱。

サキは必死で顔を背ける。弱々しい手が俺の体を押して離れようとする。
なにがそんなに嫌なんだか。さっきは公園でも良いとか言ってたやつが。

「本当になんにもないんです、この部屋。まだ家具も揃えてなくて。だから」
「ベッドがないからエッチできないって?」
「そ……、いうことです」

うつむいたって真っ赤になった顔は隠せない。
俺は久しぶりに初々しい感じのサキに対して主導権を握っている自分に心が躍った。

そんなふうに言われて、〈はいそうですか〉で引き下がってきた俺じゃない。

「そういや、昨日の夜からいろいろばたばたしててちゃんと汗落とせてないんだよなあ」
「え? あ、そう、でしたね」

俺はちらりと目をやって、口元をくいと上げる。
サキが目を見開いて、生唾を呑むのがわかった。

「風呂、一緒に入るか」
「え」

ということで、俺たちは一緒に風呂で汗を流すことにした。
もちろん、逆に汗をかくことになったってそれはご愛嬌。


●●●



「なんでタオル巻いてんの? 今さらじゃね?」
「……」

俺の後から狭いに風呂場に入ってきたサキは、大きなバスタオルで全身を包んでいた。
まだ湯船にも浸かってないのに、顔と体を真っ赤にさせて胸元をぎゅっとつかんでいる。

俺といえば、タオルなんて最初っから身につけてなくて、むき出しの自身だって別に隠そうとしない。
いくら密着するくらい狭い風呂でも、相手はサキなんだ。隠す方が今さらだろう。

「おい」
「……いや、です」
「お前、ここでまたひと悶着させる気か? 風呂に引きずりこむまでどれだけ苦労としたと思ってんだよ」

実のところ、ここへ連れてくるまでにすでに俺たちは揉めていた。
嫌がるサキに興奮していたのも最初の方だけで、あとはひたすら意味もなくこいつを風呂へ連れてくることだけに執着していた。

なので、もういまとなっては普通に風呂入るだけでもいいんじゃないかくらいの気持ちになっている。
それなのに、ここへ来てまだ強情にも俺を拒むとはこいつの頑固も筋金入りらしい。

「一応訊くけど、なんで嫌なんだよ?」
「……明るいし、私の体、貧弱なんで」
「明るいところでも何度も見てるし、別に貧弱じゃないだろ。それとも、お前の体のどこがどう良いか、いまからひとつずつ並べて言ってやろうか? そうすりゃ、ちょっとは自信持てるだろ? なあ?」
「先輩。お、怒ってます?」
「怒ってないように見えるのか?」

またため息が出た。無理やり脱がせても良かったが、それじゃあこれまでと変わらない。
俺は背を向けて、シャワーの調整を始めた。水音が狭い風呂場に響く。

「別に恥ずかしがってもいいけどさ。そこまで嫌がられると彼氏としては多少傷つくわけだ」
「か、彼氏」
「ちげえの?」

ふり向いて問いただせば、ちがわないです、と舌足らずな感じで答えが来る。
なに、〈彼氏〉って単語くらいで感じ入ってるんだか。こういうところはよくわからない。

俺はちょうど良いシャワーの調整に戻る。初めて使うせいか、シャワーの出がうまくいかない。
と、ふいに、背中が温かい熱に包まれた。おどろくと同時に、それが人の素肌だと気付く。
どうやらサキは身につけていたバスタオルを脱衣所に放り、なぜか俺の背中に抱きついているらしい。

言っておくがふたりとも全裸だ。肌が密着するのは当然で、サキの柔らかい胸元が直接感じられる。

「なにしてんの?」
「バ、バスタオルは取ります、けど、見られるのは恥ずかしい、から」
「いや、まっぱで抱きついてくる方が恥ずいと思うけど。……まあ、でも。誘ったのはそっちだからな」
「へ?」

相手が呆けた声を出している間に、俺はすばやく身を反転させる。
シャワーヘッドが床に転がって無作為に湯をまき散らす。

うしろから抱きついていたサキと正面から向き合うように体勢を入れ替える。
湯気でくもったって明るい浴室のなかで互いの体は隅々まで見通せた。

俺が少しだけ体を離して両手を広げる。

「どうせ抱きつくなら前からにしろよ。お前、抱っこされんの好きだろ?」

本音を言えば、抱き上げるのが好きなのは俺の方なのだが、普段控えめなサキを前にするとどうしても向こうから求めさせてやりたくなる。
このままだと明るいから体がよく見えるな、なんて言ってやれば、サキは顔を羞恥で染めて控えめに、だがしっかりと体を密着させてきた。

「み、見ないでください」
「……マジで天然なの、それ」
「え?」

ぎゅうぎゅう押しつけられてくる体と、背中に回って小さな手。
どう考えても誘っているようにしか思えない。

怯えているような声で聞き返してくるのがどうもかわいそうになって、とりあえず優しく背中を撫でてやった。
すると安心したのか、サキの体から少しだけ力が抜ける。
それを機に、首や耳のうしろに唇を落とし、肩から鎖骨にかけてやらしくない程度に舐め上げる。

「ん、ん……は」

気持ちいいというより、心地よい快感。これからするのは怖いことじゃないと教え込む。
だんだん照れもなくなってきたのか、上半身がゆるんだところで隙を見てそっとキスをする。

「サキ……ん」
「んんぅ、は、ふぅん……せんぱ」
「こういう、ゆっくりなのも結構いいな。お前のこと、じっくり味わえる」
「せ、せんぱい。恥ずかしいこと、言わないで」
「なんで? 恥ずかしいと、濡れるだろ?」

耳元で告げてやれば、あ、と一際大きな声がひびく。密着した腰が軽く揺れる。
俺のことばに一々、反応するところはきらいじゃない。
それにこうなれば、もういつもの頑固はどこへやら。抵抗もこれといってなく動いてくれる。

まだ家具が揃っていないというのは本当のようで、バスルームにも必要最低限のボディーソープとシャンプーが置いてあるだけだった。
しかたないので、床にあぐらをかいて俺のひざにサキを座らせる。

上からシャワーをゆるく浴びせてやれば、気持ちよさそうに頭を俺の肩にのせてくる。
シャワーの水滴が当たって上下する胸元を見つめながら、ゆっくりしようと思っていた心がざわつく。
あせる心を誤魔化すように軽くついばむようなキスをくりかえす。

「体、洗うぞ」
「は、い」

吐息のような返事を聞いて、ボディーソープを手にのせて泡立てる。
首筋から腕にかけて泡の付いた手でなでまわしても、サキが嫌がる気配はなかった。
その上気した顔は羞恥の色ではなく、情事のそれだった。

うしろから抱きこむように胸元をいじる。
泡で滑っていつもとちがう感覚がするせいか、サキはぴくぴくと小刻みに反応して一々声を上げる。
それがまた俺をあおる。知らず、抱きすくめている俺自身の息も上がる。

「あ、あ、んぅ、やっ」
「乳首、きもち?」
「あん、だめ」
「うそつきだな。こうやって引っ張ったり、強くはじいたりすると」
「ああっ、あん」
「感じるくせに」

サキのももの内側が、ぷるぷると震えだす。俺の足元を濡らすのはさっきかけたシャワーの湯だけじゃないだろう。
それに、サキはいつもより感じているようだった。いろんなしがらみから解放されて、ほっと息をつける状態になったからかもしれない。今日の彼女はずっと快感に正直で、俺までその気に当てられそうだ。

起ちあがった分身を無意識にサキの小さな尻に擦りつける。彼女の腰が跳ね、左手が俺の膝に爪をたてる。
いつもなら前戯の段階でこんなに余裕がないなんてことはない。

全部、彼女のせいだ。今日はどうもこの場の空気をサキに持っていかれている気がする。

太ももから足を丹念に撫でまわす。いつの間にか、俺たちは会話もままならないくらい、ずっとキスをしていた。
浴室の濡れた空気に、キスのなまめかしい水音が響く。
さすがに呼吸が辛くなり口元を離す。よくに濡れた瞳が俺を見る。

「お前、今日、やばくね?」
「わか、んない」
「だろうな。もうなにも考えられないって顔してるし。どんだけストレス溜めこんでたんだか。まったく、これからが怖いな」
「せんぱい、キス」
「はいはい」

お要望どおりに口元をふさぐ。キスをねだる唇はひどく甘えただ。

いままでのサキは環境のせいか、どこか自分を抑えつけていた節があった。
もしかすると、その内側に眠っている抑えの利かない自分がどんなものなのか、サキ自身もよくわかっていないのかもしれない。
そんな彼女に振りまわされる自分が容易に想像ついてしまう辺り、俺もだいぶサキに当てられている。

キスをしながら口元を大きく開脚させる。まったくの素面で唐突にこの格好を要求すれば、間違いなくサキは羞恥で爆発するに違いない。
そんな格好もキスに夢中の、スイッチが入った甘えたなサキには抵抗がないらしい。

しどどに濡れた秘部に触れて初めて反応する。

「あ、や」
「うわ、こんな濡れてんの初めてじゃね? ほら、音やばい」

びっくりするくらい水音がする。慣らしてもいないのに俺のものが入ってしまいそうだった。
右手でなかをかき交ぜ、左手でクリトリスを容赦なくいじりまわす。それでも、サキは痛がらずにむしろ快感に悶えた。

「あー、ああ、あん、やら、あ、いく」
「え? もう?」
「ふああん、あー、あ、あ、あ、……ん、ん」
「うわ、マジか。俺のテクが泣くぜ」

まだ大してなにもしていないのに、サキはあっさりと絶頂を迎えた。
放心して半開きになった口元からよだれが扇情的に伝って胸元に落ちる。

「ごめ、なさい」
「いいけど。そんなに良かったのか?」
「だ、だって、私、先輩に触られてると思ったら、なんか、いつも以上に、あ、ふぅ」

一回イッたくらいじゃ全然正気に戻っていないらしい。
サキは話しながらもボロボロと泣き出してしまった。これほどまでに情緒が揺れている彼女を見るのも初めてだった。それだけ、いままでの〈牧原サキ〉をつくっていたものは彼女にとって重荷だったのだろうか。

〈桜小路サキ〉になって生活を一新して、彼女は変わろうとしている。
だが、それが苦もなく、あっという間に済ませられるものではないことくらい俺にもわかる。
彼女はまだ過去の自分と未来の自分、その間にいる現在の自分との間で揺れているのだ。

それを目の前で知って受け止めてやることができるだろうか、俺に。
……いいや、できるできないではない。やるんだ。そう決めただろ。

とにかく、いま解決すべきはこのリミッターの外れたサキをどう満足させてやるかだが。

「お前、ひどくしたからって明日、怒ったりしないよな?」
「?」

頭をこてんと横に倒し、よくわかっていないようすのサキに問うてもしかたない。
だいたい手加減してやろうにも、いま、こいつから醸し出される凄まじい色気とエロイにおいに勝てるほど、俺も大人ではないのだ。

俺は風呂場に持ち込んでいたコンドームの袋を破って自身にかぶせる。
これはついさっき、桜小路に嫌々ながら箱買いさせられたものだった。

慣れた手つきでゴムをはめていると、振りかえったサキがとろけた目でじっとそれを凝視している。
他意がないとわかっている分、性質が悪いほどやらしい目だった。

「こら、じろじろ見んな」
「ごめんなさい」
「その顔、全然悪いと思ってないけどな。誘ってんのか、ど天然」
「そう、かも?」

呆けた表情で言われて、思わず舌打ちする。
ひどくしたい気持ちがふつふつと湧き上がってくる。それというもの、主導権を握られそうになっているせいだろう。



結局、それからも理性を手放したサキに調子を狂わされ、ある意味で苦々しい長い情事は過ぎていった。
夕方になって床に敷いた毛の長いマットの上に疲れて寝ていたサキが目を覚ました。

「よお。よくも俺の精気吸いとってくれたな、この野郎」
「…………忘れてください」
「だったらいいけどな。あのゴムの山、だれが処分するんだ?」
「……ああ」

頭を抱えて丸くなるサキにとっても、今回のリミッター解除は予想外のことだったらしい。
日常生活がなんとか落ち着こうとしているいま、性生活のほうにストレスの発散がまわってきてもおかしくはないのだ。むしろ、いままでどちらにおいても我慢し通しだったことが不思議なくらいなのだから。

毛布をかぶって丸くなるサキのとなりに座り、その小さな頭を肩に引き寄せる。

「心配すんなよ。俺はもうお前のどんな姿を見たって離れたりしねえ。そりゃあ、少しはびっくりするだろうけど、結局はどれもサキだろ?」
「スグル先輩……。でも、あれは忘れてください」
「ぷっ。まあ、たしかに? あの誘い方はないよな。俺のこと押し倒して、まるでAVみたいな台詞を平気で」
「や、やめてください! 本当に、もう!」

毛布から飛びだしたサキが顔を真っ赤にさせて怒る。
そんなふうにまっすぐな感情を向けてくれるようになったんだ。

俺は怒っているサキをぎゅっと抱きよせる。耳元でささやけば、一瞬で動きが止まる。

「サキ、好きだ」
「そ、そんなんじゃ騙されないんですから。ちゃ、ちゃんと忘れてくれないと」
「なんで? お前のあんなにかわいい姿、忘れるわけないじゃん。それとも、サキは俺とのセックスなんてもうしたくない?」
「そう、いうわけじゃ……」
「じゃあ、またしてもいい?」
「……は、い」
「えろ」
「先輩!」
「はいはい。茶化して悪かったって」

照れてるのか、怒ってるのか、わからないような表情で話す彼女が本当に愛おしくて、すきを見て口づける。
真っ赤になって口元をあわあわさせたけど、サキはもう目を逸らさない。
いやなことがあっても、恐れていても、怒っていても、泣きそうでも。彼女はちゃんと俺の目を見つめ返してくれる。

これからはもっといろんな顔を俺に見せろよ。
そしたら、俺がふたりで毎日笑って過ごせるようにしてやるからさ。

だから、ずっとずっと俺のそばにいて、その目で俺を見ていろよ、サキ。


―――そのに映るモノ 後日談






back-banner   gallery-banner   

レンタルサーバ